マーテイン・ラージ著、林寧志訳 © 2019 Yasushi Hayashi
『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』3の2
締めくくりにもう一度繰り返しますが、社会はダイナミックな三極構造を持っており、実業界・政府界・市民界が経済・政治・文化というそれぞれの領域を三脚のように支えあいながら能動的に協力することによって成立します。個々の人間が自由の原理の下に創造的な市民文化に携わり、市民が政治における人権の平等を尊重し、経済生活では消費者と生産者が相互のニーズを満足させ、持続可能性の原理が地球を保護するようになると、社会の健全さ・豊かさ・適応力・正義が増すのです。
この三分節社会のモデルは、大金融や大企業が国家と文化を乗っ取ってしまった、サッチャー・ブレア・ゴードン元英国首相たちの市場原理型資本主義(新自由主義)の社会モデルと対峙します。また三分節社会は、イランのホメイニ師によって以前のカリフ制に逆戻りしたようなイスラム教シーア派による神権政治や、国家権力が市民生活や経済活動を統制する国家主義的官僚社会などとも相対峙するのです。
次の章では、現在の社会における企業・政府・市民界の間の境界線の混乱によって、社会の健全さ・福祉・正義・持続性・富などが犠牲になっている様子を論じます。それと同時に、人々が無意識ながらもこれらの境界線に感付いており、質的に異なる原理が社会の文化・政治・経済のそれぞれを支配することを経験的に理解していることを示します。最後に正しい境界線が守られないときには問題が噴出することを論じましょう。
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 | 政府界(国家) | 実業界 | 市民界 | 
| 領域 
 | 政治 | 経済 | 文化 | 
| 他への影響力を定める基本 | 法律,規則 | 市場,互恵, 交換,取引 | それぞれの価値観による | 
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| 権力の主な源 
 
 
 | 法的拘束力, 代議民主主義によって委任された力 | 資財および 報酬による力 | 文化的規範の設定 情報,ソフト・パワー | 
| 統制力を持つ者・組織 
 
 
 
 | 市民・有権者 行政府・官僚 立法府・議員 司法府・裁判官 
 | 事業所有者 取締役・経営者 労働組合,従業員 消費者 
 | 文化団体,住民組織,専門化の団体,市民組織の メンバーと代表 | 
| 目標 
 
 
 
 | 社会秩序,社会正義,公平さ,人間としての存在の保障、人権および受益権 
 
 | 人々の需要の満足, 富の生産,持続可能性 | 人間の潜在能力と幸福の実現・維持 価値観・共同の利益の実現・尊重 
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| 評価、 成功度を図る基準 
 
 | 合法性,社会の整合性,人間としての存在の保障,社会的包摂,公平さと社会正義 
 | 利益性・倫理性・環境の持続可能性をもって人々の需要を満足する 
 | 教育・保健・芸術・科学・精神性などを通じて人間の潜在能力が実現する度合い | 
| 指導的位置にある法的・組織的形態 
 
 
 | 官僚制度,法律・政令等によって定められた構造・権限・役所 | 営利団体,個人会社,パートナーシップ等;相互組合,協同組合,地域利益のための会社,社会的企業 
 | 慈善団体,基金, 公益信託や組合, 非営利団体, NGO非政府組織 
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| 指導原理 
 | 平等 
 | 友愛,協調 
 | 自由 
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| 資金や物資の源 
 
 
 
 
 | 税収,公債 中央銀行による貨幣の創造 | 物品・サービスの販売や契約履行から得られる利益による収入 | 金銭・時間・物資の寄付,民間企業からの助成金,政府の補助金,信託や宝くじ基金からの補助金,社会的事業の得た利益 
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| 極端に偏った形態 | 極度に中央集権化された官僚制国家 
 | 金権政治,財閥主義 | 神権制 | 
| 図3.3 まとめ:国家・実業界・市民文化界の基本的要素 | |||