【意見の縮図】
国会議員は国民の意見を代表するわけですから、国会の勢力は国民のさまざまな意見の縮図であるべきです。けれどもそもそも国民の意見とはどんなものでしょうか。安倍政権の継続を望むかどうかということに対する意見もあるでしょう。消費税は必要なのか、必要なら何パーセント程度が妥当なのかについての意見もあります。原子力発電を存続するか、廃止するかについても意見はあるでしょう。自衛隊は必要なのか、必要ならその活動範囲は何なのか、法律上どのように自衛隊を規定するべきか…ここにもいろいろな意見があります。色々な論点に関してさまざまな意見が存在するのが現代社会です。だから多党制が行われ、多くの政治団体が選挙に参加するわけです。
けれども、「この党なら私の考えをすべて代表してくれる!」と言える政党がある人はどれほどいるでしょうか? 実際に自分がある政党の党員で、その党の政策にすべて賛成しているという人たちもいるかもしれませんが、大多数の有権者にとって、自民党に投票したからと言って、立憲民主党に投票したからと言って、今回共産党に投票したからと言って、自分が投票した党の政策に全面的に賛成であるということはほとんどないはずです。これが、多様化した現代社会の市民意識なのです。
また、大きな政党は社会全般に関する様々な政策を持っていますが、「NHKから国民を守る党」などのシングルイッシューの政治団体も国政選挙に候補者を立てます。NHKスクランブル放送に賛成するから同党に票を入れたり、安楽死に賛成するから「安楽死制度を考える会」に票を入れたとすると、他の政策分野に関する自分の意志表示をすることができなくなります。こう見ると、一票しか(厳密に言えば選挙区と比例区の二票ずつですが)投じられないのを歯がゆく思いませんか? だから個々の政策ごとに国民が意志を表明する「直接民主主義」を導入すべきだという考え方もあるかもしれません。けれども、さまざまな法案に対する判断を一つ一つすべて国民に委ねるというのは現実的ではありませんし、望ましいものでもないと思います。私は、そこまでいかなくても、政策カテゴリー別に投票できる制度をさぐってみる価値があると思います。
【政策カテゴリー】
自由民主党は今回の参議院選挙に際して次のような項目に関して政策を発表しました。(https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/manifest/20190721_manifest.pdf) 外交、安全保障、経済再生・成長戦略、中小企業、科学技術、エネルギー、財政・税制、金融、行政改革等、2020年東京オリンピック・パラリンピック、女性活躍、社会保障・子育て、教育・文化・スポーツ、治安・テロ対策・海上保全、生活の安全、共生社会、環境、地方創生、農林水産業、観光、社会資本整備、沖縄振興、復興の加速、防災・減災・国土強靭化、憲法改正、と多岐に渡って書かれた文書です。立憲民主党は、「立憲民主党基本政策(2017年12月)」で、国のかたち、外交・安全保障、共生社会、教育・子ども・子育て、暮らしの安心、経済・産業・農林水産業、エネルギー・環境・災害・震災復興、などの項目にまとめて政策を発表し、また2018年7月には「国会改革案」を発表しています。
国会ではこのように非常に多くの問題を審議しますが、国会議員全員がすべての法案について議論に参加するわけではありません。議員一人ひとり自分の得意とする分野があるでしょうし、何百人もの議員がいっしょに議論するのは効率的ではありません。日本の国会では衆議院も参議院も常任委員会を設けて、まず委員会で議論し、そこで採決が行われた後に本会議で採決が行われます。じっくり審議が行われるのは委員会なのです。参議院では、内閣、総務、法務、外交防衛、財政金融、文教科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、国家基本政策、予算、決算、行政監視、議院運営及び懲罰の17の常任委員会があり、国会議員は全員すくなくとも一つは常任委員会のどれかに属することになっています。委員会の構成は、各会派の議席数の比率によって割り当てられ、多くの委員会の定員は20人から25人程度になっています。
【分野別選挙区】
17の常任委員会の委員すべてを有権者の投票で選ぶのは複雑なので、関連のありそうな委員会をいっしょにまとめて六つ程度の「政策分野別選挙区」をつくります。
· 「内務政策選挙区」国民の権利・治安・政治制度
(内閣、総務、法務、等の委員会)
· 「国家・対外政策選挙区」外交・安全保障
(外交・防衛、国家基本政策、等の委員会)
· 「財政政策選挙区」財政・税制・金融
(財政金融、行政監視、等の委員会)
· 「文化・ひと政策選挙区」文化・教育・医療・社会保障
(文教科学・厚生労働、等の委員会)
· 「環境・国土政策選挙区」環境・地方・国土開発
(環境、国土交通、等の委員会)
· 「産業政策選挙区」産業・エネルギー・貿易
(経済産業、農林水産、等の委員会)
当然、各‶政策分野別選挙区〟から選出された議員が該当する委員会の委員になります。国会はそもそも国全体、国民全体の福利のために法案を審議するところなので、「地元の選挙区の利害を代表する」という形をとる必要はないはずです。
(「政権を取る」、「勝ち負け」という概念を越える政治を目指す必要があるのは以前のブログで書きました。2017年10月25日「 ピラミッド型から多元連携型のリーダーシップへ」参照。)
ですから各‶政策分野別選挙区〟とも‶全国比例区〟でよいでしょう。240人の定員を六つの「政策分野別選挙区」等分すると、各選挙区とも定員が40人程度になります。この六つの分野に含まれていない常任委員会はここに含まれている委員会のメンバーが兼任することになります。
参議院は任期が6年で、3年ごとに議席の半数を改選するので、そのたびに六つの‶政策分野別選挙区〟で半数の選挙を行うのではなく、2022年には「内務政策選挙区」、「財政政策選挙区」、「環境・国土政策選挙区」の選挙を、2025年には「国家・対外政策選挙区」、「文化・ひと政策選挙区」、「産業政策選挙区」の選挙を行うといった形にするほうが、選挙の争点が絞れてよいでしょう。
【衆議院と参議院の役割分担】
参議院が、特に「良識の府」として機能するためには、目先のカネの分配とは離れたところで、時間をかけて(任期6年、解散もなし)問題を深く審議する必要があります。例えば「地方のニーズ」を議論する際には、地方に住む人たちが自分たちの 利益を守るために大都市圏の人たちと資金の割り当てを競い合うために議論するのではなく、地方に住む人も大都市に住む人もどんな国土を築くのが望ましいかを考えて「国土開発」を議論するのです。憲法改正も皇室典範の改正も、参議院の‶内務政策選挙区〟から選ばれた しかるべき委員会でじっくり議論して国民や各党のコンセンサスが得られそうになった時点で、衆議院も交えて改正の発議を起こせばよいのではないでしょうか。こう考えると、衆議院の優越性が憲法で定められている「予算」を審議する予算委員会は、参議院には設けなくてもいいのではないか、とわたしは思います。参議院では「今」を越えて、長期的な視点から物事の本質をとらえつつ、大きな政策・権利・法制度の枠組みを審議し、政策執行に関する個々の細かいところは、内閣総理大臣をえらび、政府の政策に基づいて法案を審議する 衆議院で審議すればよいのです。
もちろん、どのような内容の法案を初めにどちらの議院で審議するかとか、参議院が定めた法律・政策の原則は衆議院がその時の議席数のパワーで無理やり変えてはならないなど、衆参両院の間の力関係を法令で定める必要があります。例えば、環境保護や市民の生活の安全といった観点から、産業・事業はどのような安全基準に則って経営を行うべきかというルールの設定は参議院でじっくり審議し、衆議院もその議決に配慮すること、そして、衆議院がその枠組みのなかで原子力発電所を稼働するのを許可するなら、参議院はそれを阻止しないこと、などどいう合意です。
細かいところは、わたしにはわかりませんし、重大な見落としをしている可能性も大いにあるでしょう。そしてもちろん、このようなことが簡単に実現できるはずはありません。けれども、このぐらいの大ききな視点から根本的な国会改革の可能性を語り始めてもいいのではないでしょうか。いや、それどころか、民主主義の危機が世界的に叫ばれている今だからこそ、社会三分節論も含めて、新たな視点から民主主義や現代市民社会のあり方を見直すことがわたしたちに要請されているのではないでしょうか。
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