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互恵経済  ·  1月 25日, 2018年

経済格差を是正する新しいストーリー

【ダボス会議】

世界経済フォーラムの年次総会が1月23日から26日までスイスのダボスで開かれています。G7の首脳を含む世界各国の政界や経済界のリーダーたちが集まっています。自国第一主義のアメリカのトランプ大統領も出席していますが、日本からは安倍首相どころか、政治家や閣僚はだれも出席していないとのこと。国会が召集されるからですが、安倍さんは2014年に出席して以来4年連続で欠席だそうです。それでもピョンチャン・オリンピックの開会式には出るというのですから、首相の優先事項の決定に疑問符がつきます。ダボス会議では保護主義や経済格差などについても話し合うことになっていますが、今回のブログはダボス会議についてではありませんので、あしからず。

【格差に関するOxfamの2017年報告書】

さて、去年1月のダボス会議に先駆けてオックスファムが『99%のための経済』という報告書を発表しています。それによると、「富めるものと貧しいものの間の格差は、これまで考えられていたよりも大きく、世界で最も豊かな8人が世界の貧しい半分の36億人に匹敵する資産を所有している」と言います。「1988年から2011年にかけて、世界人口の最も貧しい1割の人々の収入増は、65ドルにすぎませんでしたが、同時期に、最も豊かな1割の人々の収入増は、11,800ドル、彼らのおよそ182倍も増加しています。」さらに、オックスファムのウェブサイトでは「2015年9月の国連総会で合意された持続可能な開発目標(SDGs)は、〝誰一人残さない〟を合言葉に、格差問題をはじめとした地球規模課題への取り組みのための枠組みですが、今日の世界経済は、何億もの人々を取り残しながらまわり続けています。格差拡大は、何億もの人々を貧困の中に封じ込め、社会に亀裂をつくり、民主主義をも脅かしています。・・・各国政府は、格差を広げてきた時代遅れの経済理論や欠陥が明らかとなった経済政策にしがみつくのをやめ、GDPへの執着を捨てるべきです。才能と勤勉によって未来を切り拓くことができる社会、保健医療や教育など基本的社会サービスが当たり前の社会、すべての人々に資する経済を実現しなくてはなりません。」と書いています。(http://oxfam.jp/news/cat/press/201799.html) 

【日本国内の格差】

日本国内についても同様のことが言え、賃金の上昇が停滞するなかで非正規雇用の問題もあり1970~80年代の〝一億総中流意識〟はすでに遠い過去のものとなりました。先の衆議院の選挙戦では野党各党が、アベノミクスによって格差が拡大していると主張しましたが、格差は拡大しているけれども、アベノミクスが「原因」かどうかはよくわからないようです。(ヤフージャパンニュース2017年11月6日)https://news.yahoo.co.jp/byline/yamaguchikazuomi/20171106-00077830/

【経済構造と格差に対する不感症】

2013年12月4日の演説でオバマ大統領が次のように述べました。「地球上で一番豊かな国の中でこれほど多くの子供たちが貧困に生まれていることは、考えるだけで胸が張り裂ける思いです。しかし、この子供たちが貧困から抜け出せないのは、適切な教育や保健医療を受けられず、この子の将来は自分たちの将来であると感じるコミュニティがないからだと考えるなら、私たち全員が責められているわけで、私たちは行動を起こさなければなりません。」(拙訳)

もちろん経済格差が広がっている原因は1970年代以降形作られてきた経済構造によることが大きいわけで、それを変えなければならないのは明らかです。しかし、オバマ大統領(当時)が示唆しているように、経済格差の問題は私たちが他人ごとではなく、私たち自身の問題であると考えない限り解決しません。そのようなことは可能なのでしょうか。現状は、理想の社会を求める思想は縮こまり、自分に直接かかわる現実問題しか関心がないという人々が多いのです。

【共同体意識】

第二次世界大戦直後はこんな状況ではありませんでした。戦後の社会が〝特殊な〟状況にあったのは日本だけでなく、欧米社会にも当てはまります。多大な犠牲者と物資の不足という状態から社会を再建しようとする上で、各国で〝国民共同体〟の意識が高まったのでした。21世紀の現在に比べて当時の社会はまだ単純で、人と人のつながりが強く、戦前や戦争中のように上から押し付けられた国民意識ではなく、〝村意識〟の感覚でお互いに助け合おうという国民の共同体意識が育っていきました。ヨーロッパではそこから社会福祉国家の考えが根付いてゆき、日本では終身雇用制や日本的会社経営に基づく〝日本型社会主義〟が確立したのです。

また世界的には、悲惨な戦争の無意味さを感じた人々に〝人類共同体〟の意識が芽生えました。日独伊三国同盟に対抗して戦った連合国が国際連合となって、ほとんどすべての国々が参加するようになりました。ナチスによるユダヤ人迫害や戦争を防げなかったことを反省して、ヨーロッパ統合というビジョンが生まれ、ヨーロッパ経済共同体(現在のヨーロッパ連合)が生まれました。日本でも、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」、「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という理想を実現すべく、日本国憲法が制定されたのでした。

もちろん資本主義対共産主義という対立もありましたが、のちに崩壊する共産主義でさえ当初は、すべての人々を豊かにするという理想主義を持っていたのです。

【新自由主義の興隆】

ところが、1970年代になると、「相互依存・相互扶助」という感覚が薄れてゆき、「自己責任」という概念が表舞台に出るようになります。それに伴って経済政策の面では、政府の介入に基づく福祉国家政策から「小さな政府」を標榜する市場原理主義への回帰が起きました。アメリカのレーガン大統領(1981年~1989年在任)、イギリスのサッチャー首相(1979年~1990年在任)、日本では中曽根首相(1982年~1987年在任)がその先駆者です。Iron Ladyとも言われたサッチャー首相は「社会などというものは存在せず、あるのは個人と家庭だけだ」と言い、労働組合を目の敵にし、イギリス国有鉄道などの公有企業の私有民営化を進めました。中曽根首相も国鉄・電電公社・専売公社の民営化を行いました。

社会全体の福利については、新自由主義は「金持ちがもうかれば、貧乏人もおこぼれにあずかれる」というトリクルダウン(こぼれ落ち)効果を説きます。高度成長期には〝パイ〟が大きくなれば一人一人の分も大きくなり、確かに国民全体の生活水準が上がりましたが、バブル崩壊以後はそのような効果が期待できなくなりました。〝パイ〟を大きくすることができなくなると、自分の取り分を確保するために「自分はこんなに働いている。貧乏人は一生懸命働かないから貧乏なのではないか?」という疑問が頭をよぎるようになります。そして「自己責任」なのだから、金持ちから税金を絞って社会福祉をばらまく必要はない、という結論に達します。戦争直後に人々が感じた社会的道義・責務としての「責任」から現在の懲罰的に個人に課する「自己責任」に代わってしまったのです。

【新しいストーリー】

ここでオバマ大統領が嘆いた現実に行き当たります。貧乏に生まれるとどんなに頑張っても貧乏から抜け出せないという事実は、「自己責任」がすべてではないことを表しています。裕福な家庭に生まれないと裕福な生活ができないのは富が世襲化されているからで、貴族制と違いがありません。生まれた時点での〝勝ち逃げ〟を許さないようにするには現在の経済のあり方や社会構造を変えなければなりませんが、まずその前に国民全体が「‶勝ち逃げ〟は公平ではない」という意識に目覚めなければなりません。私たちの社会生活がどんなものであるかを示す新しいnarrative、‶ストーリー〟‶由来書き〟が必要なのです。

「‶自分が働こうが働かずにいようが結果は同じで、国からお金をもらって生活すればいい〟というのでは困る。責任感に目覚めて自己責任で生きるのが正しい。そもそも社会は個人の集まりにすぎず、個人が自分の能力を発揮して自由に自分を豊かにし、その結果社会も豊かになるのがよい。」というのが新自由主義的なストーリーです。しかし、これに則ってあまり高飛車になると、貧乏なのは勉強しなかったからだとか、薬物などに手を出したからだとか、過ちを犯したのだからみじめな生活をおくって当然だ、ということになり、情け容赦ない社会になってしまいます。

「それぞれ自由な生き方を求めて努力するのが当前だが、自由である限り、道を誤ることもある。意識的に不正を行って自分の利益を得ようとする者は罰するべきだが、失敗や過ちを犯したものは咎めず、次はちゃんと頑張れるようにサポートしよう。」 こういう社会のストーリーもありましょう。

「金持ちは大きな顔をして自分の力だけで裕福になった顔をしているが、先人の努力に基づく学問を学び、先人の築いた道路・鉄道・通信技術を使い、自然が無料で提供する水や空気、土地や資源を使って豊かになったはずだ。蓄えた富を社会に還元するのは当然だ。「市場」とは本来売り手も買い手も得をするはずで、多国籍企業の経営者が巨大な富を蓄積しているのに、資源を採掘する第三世界の人々や製造に従事する発展途上国の人々の生活が厳しいというのは、取引価格が適正ではないからだろう。真の「市場経済」を回復しよう。」と、根本的なところを問うストーリーもありましょう。

「生活に必要であろうがなかろうが、何でもかんでも買わせるためにモノを作って売り続けると、資源がなくなるばかりか、いらないモノがあふれてごみの捨て場にも困る。買っても買っても心は満足できないのだから、もっと賢く必要な物だけ求めるようにしよう。そうすれば、そんなに売り上げを増やさなくても充分豊かに暮らせるような経済になるだろうし、環境破壊もおさまるだろう。」という見方も必要かもしれません。

【友愛・互恵の経済】

そもそも経済活動とは何なのでしょうか。なぜ格差が生まれるのでしょうか。共産主義経済が崩壊した今、資本主義経済が当然のものと考えられていて、経済の根本原理は何かと問えば「自由だ!」という答えがすぐ返ってくるでしょう。「計画経済」が崩壊し、市場メカニズムに基づく自由競争の経済が世界を支配しているのだから、当然です。けれども本当にそうなのでしょうか? 現実の経済活動をとらわれなく観察したり、経済活動の成り立ちをかんがえると、他人が必要としている物品やサービスを提供することが経済活動だといってもいいと思います。自分の自由な発意に基づいて作物を作ったり、お店を開いたり、建物を建てたり、IT企業を立ち上げたりしますが、それらの行為はすべて他人を利するために行うのであって、そのための代償としてお金を受け取るのが本来の経済の姿です。‶お客様は神様〟であり、‶おかげさま〟の経済です。「自由競争」の代わりに「互恵」を原理に今ある現実を説明するとどうなるでしょうか。どんなストーリーになるでしょうか。それがまさにルドルフ・シュタイナーの説いた経済における友愛です。

シュタイナーの経済論に基づいて来るべき社会の経済のあり方を解説した、イギリスのマイケル・スペンスによる『ポスト資本主義』という本があります。今年はこの本の内容をすこしずつこのウェブサイトを通じて紹介したいと思います。

 

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社会三分節研究室・林寧志

オーストラリア、メルボルン在住

 

 

 

 

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