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自由・多様性  ·  11月 25日, 2017年

平等と多様性、同性婚の合法化とコンセンサス

私の住んでいるオーストラリアでは、国がおこなった「同性婚の合法化」に関する郵便世論調査の結果が先週発表されました。「同性のカップルが結婚できるように法律をかえるべきですか?」という問いに対して、79.5%の返答率で、61.6%が賛成、38.4%が反対でした。年内にも国会で法律改正がおこなわれ、同性婚が合法化される見込みです。

 

もともと、オーストラリアでは同性婚の合法化に賛成する国民が過半数を越えることは一般の世論調査で知られていました。政党間のいろいろな駆け引きがあって、国会の議決の前に国民投票でなく統計局による「郵便世論調査」が行われたのです。オーストラリアでは国政への投票が義務付けられていますが、義務ではない今回の郵便世論調査でも返答率が高くなっています。

 

促進派によって「同性愛者の結婚の平等」がさけばれ、保守派は 伝統的な家族観や「結婚は男女間によるもの」と主張する宗教各派の教義をまもる観点から、キャンペーンが行われました。「票」を集めるためのテレビ広告もいくつもあり、「同性婚を認めたら、こんなことになる」(小学校で男子どうしが同性婚のロールプレイをするようになるとか、同性婚に反対するケーキ屋さんも同性カップルのウェディングケーキを作らなければならなくなるとか)と不安をあおるようなものもありました。

 

私は、この議論は「結婚の平等」ではなく「結婚の多様化」に関することなのではないかと思います。同性愛者たちが特に結婚できないわけではなく(異性となら、同性愛者でも結婚できる)、つまるところ現在法律で認められている「結婚」以外の形の結婚を望むからです。「平等」に関することと「自由」「多様性」に関することを意識して区別する必要があると思うのです。

 

社会で「当たり前」だったことは変わっていきます。もともと「日本人どうしで結婚するのが当たり前」であっても、最近は「国際結婚」が増えてきました。オーストラリアでは1970年代までは親からの勘当を覚悟してでないとカトリック教徒とプロテスタント教徒は結婚できなかったそうです。(これを ‘mixed marriage’ と呼びました。) 「結婚」の概念も当然変わるもので、国民の大多数が同性婚も「結婚」に含めてよいと考えるときに法律も変わります。ポリアモリーpolyamory という言葉がありますが、三人以上の人が「結婚関係」にあってもよいと多くの国民が考えるようになったら、将来「多夫多妻」も法律で認められるようになるかもしれません。

 

「文化」と「国家」の分離の原則から考えるとわかりやすいと思います。国内の文化が一様であった時代はともかく、価値観が多様化するにしたがって、国家は「文化的」な事柄の管理から身を引く必要があります。そうでないと、多数派とは異なる意見やライフスタイルを持つ人々の自由が侵されてしまいます。国家の使命は自由の「権利」を平等に「保障」することです。「自由の中身」は「文化」に属することなのです。こう考えると「結婚」の概念を国家の管理から離してしまい、国が管理するのは男女間であれ同性間であれ「家族としてのパートナーシップの契約」であると考えるのが良いのかもしれません。そういうわけで、私は「結婚の平等」を主張するより「〝結婚〟という概念を多様化させる」「結婚形態をえらぶ自由」という主張のほうがよいと考えていましたが、そのような主張・論調はついに見かけませんでした。

 

さて、大まかに言って賛成が60%、反対が40%のオーストラリアの同性婚合法化ですが、実はここから先が重要です。少数意見をどうするか、どのように異なる意見を和解して調和の取れた社会を取り戻すかということです。今回の郵便世論調査は「賛成か、反対か」という二者択一だったため、キャンペーンも「賛成」と「反対」の一騎打ち、結果も「勝ち」か「負け」かのいずれかです。このような問いの立て方はゼロサムゲームです。国会での議論自体が通常「俺の意見」と「お前の意見」の対立です。そうすると勝った人たちはいいですが、負けた人たちは面白くありません。二者択一の政治は国民の間に不満を作るようにできています。(小選挙区制に基づく「二大政党制」とはそういうものではないでしょうか。) みんなが「勝ち」になる発展した民主主義の形はないのでしょうか?

 

同性婚に反対だった人は、伝統的な「夫婦」「家族」に大きな価値を認めます。男女間の結婚を神聖視する宗教的な考え方を強く持っている人もいます。自分たちの価値観や生き方が侵されるのではないかと心配している人もいます。自分と同じ価値観でないとダメだと思い込むと問題になりますが、そうでなければ、反対意見の人たちの危惧を和らげるような方策を講じる必要があります。法律でできることもありますが、当の本人が政治に頼らず「一私民」として、あるいは教会として市民界/文化の領域で自分たちの価値観を代表することにも意味があります。

 

オーストラリアの国会でもさっそく同性婚の合法化に関連して「信仰の自由」を保障する法案を提出する動きが出ています。これを「合法化賛成」の結果にいちゃもんを付ける遅延作戦だとみることもできます。しかし、根底にある問題は、もともと国会での審議が意見の対立を浮き彫りにしただけで、合法化の結果どんな影響が出るかなどの議論がまったく深まっていなかったことです。「同性愛の人々も結婚したい」という現実と「自分はいままでの結婚形態が良い」という意見を調整してコンセンサスを形成し、みんなが平和に生活できるようにするのが政治・法律の役目のはずです。「多数決主義」から「合意の形成」へ、政治家の議論の仕方はもちろん、メディアの論調や報道の仕方、一般市民の考え方も進化する必要があるとおもいます。

 

日本では同性婚の議論はまだ広く行われていませんが、今の憲法論議についても同じことが言えるのではないでしょうか。「護憲」か「改憲」かという入り口で言い争ってばかりいないで、外交・安全保障のコンセンサスを模索することが必要な気がします。

tagPlaceholderカテゴリ: オーストラリア, 自由・多様性, コンセンサス, 平等

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社会三分節研究室・林寧志

オーストラリア、メルボルン在住

 

 

 

 

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