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国内政治・選挙  ·  10月 25日, 2017年

ピラミッド型から多元連携型のリーダーシップへ 

日本では英米の「二大政党制」を真似して1996年から衆議院で小選挙区制が導入されました。これは人間の社会意識の進化に逆行したものだと思います。「貴族・庶民」、「有産階級・労働者階級」などと二分される社会ならともかく、現代社会では国民の考えは単純に「Aか、Bか」に割り切れるものではありません。国会は国民の様々な意見の縮図であるのが本来の姿で、小選挙区制で勝つために無理やり政党が合併したり合流したりしては国民の意見が反映されません。

 

もちろん現実の政治では「政権を勝ち取る」ことが必要なわけですが、実はこの「勝ち負け」という発想自体が現代人の意識にそぐわなくなっているのではないでしょうか。

 

行政府の長を国民が「直接」選ぶ大統領制のほうが、立法議会が首相を選出する議院内閣制よりも純粋な民主主義だと言われることがあります。しかし、世襲の国王に代わって一人の指導者を選挙で選ぶという考え方は、強力なリーダーが先頭に立って国民を引っ張ってゆくという、将軍のイメージそのものです。戦争のように「勝ち負け」が重要な場合はそれも必要でしょう。しかし、現代社会の様々な場面で必要とされているリーダーシップはそういうものではないと思います。私たちが一国の首相に託するイメージはどんなものであるべきでしょうか。

 

立憲民主党を立ち上げた枝野幸男氏は、「右か左か」ではなく「上から押し付ける政治か、草の根からの政治か」の選択だとうったえました。そのとおりです。上から押し付けられる政治に国民はうんざりしているのです。だから政治的無関心層が増えているのでしょう。ピラミッド型の階層を社会の構造としてイメージしている限りは草の根民主主義は実現できません。民主的中央集権制というのがこれに当たりますが、民主主義ならピラミッド型でもよいというわけではないのです。民主主義の多数決はとても専制的だからです。51%の人々が49%の人々の意見を無視して決めることができるからです。議論によって合意が形成されればよいのですが、それがかなうことは多くありません。それではどうしたらよいのでしょうか。 

 

一般に現代人はあれこれ上から命令されるのを好みません。職場であれ、町内会であれ、趣味の同好会であれ、なんでも他人からああだ、こうだ、言われては嫌になってしまします。自分でかかわっていることは自分で決めて行動したい、ということです。必要なのは、意見の異なる人々の自由を認めることです。多様性に対して寛容なだけでなく、多様であることに意義を感じると、文化が生き生きしてきます。

 

また、何かを達成するためには他人と連携する必要があることにも気づかなければなりません。自分だけの利益を求めるのでなく、互恵の精神で協力するのです。その際には、どんなことにも誰もが意見をさしはさむというのではなく、専門家や現場の人々の意見や経験を尊重して、決定や行動を一任するということも必要です。必要に応じて分業しながら、互恵の精神で連携・協力できるようになると、事業が効率的に運びます。

 

しかし、何でも、専門家も含めて人々の勝手な判断に任せていては不都合なことが出てきます。どんなルールの枠内でなら自由にやってよいか決める必要があります。このような最低限のルール作りは平等・参加の原則に基づいてみんなで議論して決めるのが妥当で、必要なら多数決を行います。時代によって人々の価値観も変わるので、時を経るにしたがって再検討する必要も出てきます。

 

このように考えると、どのような場面で民主的な多数決を使い、全員がその決定に従い、どの場面で当事者の自由裁量に任せ、多様性を認めるか、あらかじめ決めておくことで、凝り固まったピラミッド型社会をもっとダイナミックな社会に変革することができます。これがルドルフ・シュタイナーの提唱した社会三分節の根底にある考え方です。

 

国政の問題に戻って考えると、立憲民主党が今回の選挙で躍進したのは枝野幸男氏の主張する理念に多くの国民が共感を覚えたからでしょう。民主党・民進党が国民の支持を失っていったのは憲法問題にしても原発問題にしても党の理念・姿勢が見えなくなったからだと思います。立憲民主党も、数合わせのために他党と安易に合流すると国民の支持を失う可能性があるでしょう。したがって、必要なのは野党各党がそれぞれのアイデンティティーを失わずに、お互いの意見を尊重しつつ、目的達成のために行動を共にする、というアプローチでしょう。(排除の理論と正反対です。)もちろん政権をとるためには政策の詳細を決定しなければなりませんし、そのためには政党間の妥協が必要ですが、その際、どのように国民からの支持率を測って、それをもとに「政党連合」としての共通の立場を決定するか、そのメカニズムをあらかじめ野党間で合意することができればよいと思います。(ゆくゆくは、自民党か、非自民党かでなく、国民が直接自分の好きな政党の代議士を国会に送れるような選挙制度にする必要があります。)

 

このような「政党連合」の時代、連立政権の時代に必要なリーダーは「一番強い人」ではなくて、「異見のまとめ役」なのではないでしょうか。

 

tagPlaceholderカテゴリ: 選挙制度, リーダーシップ, コンセンサス

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社会三分節研究室・林寧志

オーストラリア、メルボルン在住

 

 

 

 

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