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マーテイン・ラージ著、林寧志訳  © 2019 Yasushi Hayashi

『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』7の1

 

第七章 狂奔する資本主義:没収された共同の富

 

信用崩壊に直面しながら彼らが提案することと言えば、さらに資金を融資することでしかない。国民が自分たちのような偽りの指導者に従うように金儲けを誘惑として使うことができなくなった今、彼らは信頼を回復するために涙ながらに口説く手法に出ている。彼らは利己主義世代のやり方しか知らないのである。 

フランクリン・ルーズベルト米大統領就任演説、一九三三年三月 

注1.この章の表題はアンドルー・グリン著『狂奔する資本主義―格差社会から新たな福祉社会へ』伊藤誠・横川信治訳,ダイヤモンド社,2007年(原題Capitalism Unleashed)から取った。

 

大企業は国家と文化を乗っ取ることによって秘密裡に共同の富を盗み取っています。乗っ取られた国家と買収された国会から援助を受けながら従順なマスコミという覆いの下に、金融エリートや大企業エリートたちによって預金・賃金・年金・公共サービス・金融制度・雇用・環境などが、そして空気・水・土地・資本・遺伝子遺産などのコモンズ(共有財)が、社会すなわち一般市民から取り上げられているのです。ラリー・エリオットとダン・アトキンソンが見るには、金融界のエリートたちが私たちの将来の富をギャンブルによって使い果たし、私たちを借金奴隷への道に追い込んでいるのです。

 

訳注.ラリー・エリオット,ダン・アトキンソン著『市場原理主義の害毒 イギリスからの眺め』グリーン裕美・阪本 章子訳,PHP研究所,2009年

 

この状況は非常に厳粛なものです。イギリスの労働に関するシンクタンク、ワーク・ファウンデーションの会長ウィル・ハットンは二〇〇八年一月に金融産業の統制を政府に要請しました。その理由は金融業が経済の安定性を損なっているだけでなく、その〝儲け主義一本やり〟が国民生活を不安定に陥れているからです。「人類の歴史で少数の者が多数の一般大衆に利益を与えぬままこれほど巨額の利益を手にするのが許されたことは今までなかった。地球上どこでも自信過剰の一連の冒険者によって社会や国家がごまかされている。これらの者は銀行家や、ヘッジファンド[投機性の高い投資戦略をおこなうファンド]やプライベート・エクイティ・ファンド[未公開株を取得し、株式公開や第三者に売却をすることによってキャピタルゲインを獲得することを目的としたファンド]投資家を装って、途方もない自己富裕化のために世界を大不況の瀬戸際にまで追い詰めた。これは経済史上もっとも偏った取引である。」

 

Will Hutton, ‘This Reckless Greed of the Few’, Observer, 27 January 2008, p. 35. 

 

けれども個々の銀行家を責めるのはよいですが、乗っ取られた国家自身が共同の富を国民から没収することによって金儲けを奨励していることを忘れてはなりません。 

この章ではこの没収がどのように起こったかを分析します。共同の富を取り戻すための第一歩はコモンズを盗み取るのに用いられた手法を知ることです。そして次の章で人々・社会・地球のためにどのように資本主義を変革してゆくかを提案することにしましょう。

 

二〇〇七年の金融市場の崩壊によって、一九七九年以来世界を支配してきた新自由主義経済がもたらした損失について再検討されるようになりました。ロンドン金融街やウォールストリートの金融エリートたちは信用危機が広まると無防備になり、破産寸前の金融機関は援助を求めて政府に駆け寄りました。

 

金融メルトダウンは非常に大きな難題です、原因は何なのでしょうか。鍵となるのは大企業による共同の富の囲い込み、および資本や金融コモンズの囲い込みです。コモンズの囲い込み問題は、地球の温暖化・エネルギー問題・種子の特許化・公共設備の私有民営化・公共空間の損失・破産した銀行の公金による救済など、私たちが直面する様々な問題の根底にあります。市場原理主義、自己本位の資本主義、新自由主義経済、[英国首相経験者ブレアおよびサッチャーの]〝ブラッチャリズム〟など、なんと呼んでもいいのですが、このイデオロギーによって大企業が共同の富を盗み取るのが容易になったのです。

このように分析すると、共同の富を回復するために様々な手段を考え出すことが可能になります。コミュニティ土地信託(CLTコミュニティ・ランド・トラスト)、資産の相互組織化、資本コモンズの確保、Linuxのような共有されるクリエイティブ・コモンズの発展などの例がすでに起こっています。

この章では次の内容を取り扱います。カッコ内は書籍版に記載したもので、本サイトには載せていません。

 

·       (信用危機:利益の私有化、損失の国有化)

·       イギリスの新自由主義派

·       (新自由主義とその起源)

·       本当に選択肢はないのか

·       統治機構と文化を営利化し、商品化する

·       富を金権エリートたちへ吸い上げる

-   イギリスとスウェーデンの比較

-   新自由主義によるロシアとイラクの取り扱い

·       (所有権剥奪による蓄積)

1.     (私有民営化と商品化:コモンズから市場へ)

2.     (金融化)

3.     (危機を管理し操作する:〝債務の罠〟と経済的ショック療法を通じて)

4.     (国家による「逆」再分配)

·       まとめ

·       新自由資本主義と三分節社会の比較概要

 

 

  • マーティン・ラージ著『三分節共栄社会』について
  • 第一部 社会を造り直す
  • 1. どんな社会の未来を望むか?
  • 2. 個人のイニシアチブが社会を造り直す
  • 3. 三分節社会:政府界・実業界・市民界
  • 第二部 資本主義の成熟と境界線の侵害
  • 4. 市民界の出現:壊れた柵を造り直す
  • 5. 国家を乗っ取る
  • 6. 文化を乗っ取る
  • 7. 狂奔する資本主義:没収された共同の富
    • まとめ:新自由主義と三分節社会の比較
  • 第三部 境界線を引き直す
  • 8. 資本主義の変革
  • 9. 市民のベーシックインカム:社会的包摂および全ての人の共栄
  • 10. 住民・家庭・コミュニティのための土地
  • 11. 教育に自由を吹き込む
  • 12. 共生社会:今出現する社会の未来像から導く

 

 

 

 

 

社会三分節研究室・林寧志

オーストラリア、メルボルン在住

 

 

 

 

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