マーテイン・ラージ著、林寧志訳 © 2019 Yasushi Hayashi
『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』5の1
わが国の安全を考えると、近い将来私を動揺させ震えあがらせるような危機が迫ってくるのが見える。…企業が王座につき、高位のものによる汚職の時代が到来するだろう。
エイブラハム・リンカーン、ウィリアムズ・F・イーキンズ大佐への書簡
(一八九四年十一月二十一日)
この章では大企業や大銀行がどのように国家を乗っ取ったかを分析します。大企業がどこまで登りつめ、王座に近づいたかということです。これは非常に重要なことで、これが分かれば、失業者が週に六十四ポンドしか失業手当を受けぬ一方で、銀行家として失敗したフレッド・グッドウィンのような者がどういうわけで国の救済措置を受けた銀行(ロイヤル・バンク・オヴ・スコットランド)から多額の年金の支払いを受け取るのかが理解できます。
これまでの内容をまとめてみると、政府界・市民界・実業界の境界線を明確にすることによって、強力な政府、盛んなビジネス、活気に満ちたコミュニティを作ることができます。きちんとした政策立案、法制化、規制の実施、資金提供による公共サービスの維持のためには強力な統治機構が必要です。環境・労働・事業計画・競争などのいずれに関する法律でも、実業界が機能するための枠組みの設定は政治制度が行います。国家・政府の機能とは、サッカーの試合でルール厳守を保障する審判員のようなものです。もし政府自身が選手としてゲームに参加すると公平で独立した審判員としての能力を失います。利害の衝突です。また、もし実業界が政府を乗っ取ると、儲けと私利の追求が横行するようになり、今実際にそういう状況になっています。例えば、イタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニはイタリアのメディアを支配するようになった後、政党を立ち上げて自ら首相の座に着き、自分の行為を法律から免除するような法律を通過させることに成功したのです。これなどは根本的なところで実業界と政府界が癒着していることを示すもので、この点でイタリアの民主主義は本来の趣旨からそれたものになっていると言えます。
大企業がどのようにして国家を乗っ取ったかを分析するため、このウェブサイトでは次の節の一部分を紹介します。
· 乗っ取られた国家
· 大企業によるイギリスの買収(書籍版では省略)
· PFI:利益の保証と安価な公有資産の獲得(一部)
· 本通り商店街における競争の終わり:イギリスのゴースト・タウン
· 英国労働党の下の新自由主義
· (回転ドア人事と肥ったネコ(官民癒着))
· カネで買える民主主義
· まとめ:国家の乗っ取りから境界線の再設定へ