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マーテイン・ラージ著、林寧志訳  © 2019 Yasushi Hayashi

 『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』12の1

 

第十二章  共生社会:今出現する社会の未来像から導く

 

 

国民の家計や生活を守るために道徳も節度もなく歯止めの効かない市場原理主義、金融資本主義に終止符を打つにはどうしたらよいでしょうか。それが我々の直面する問題であります。…このような時代には、自由という理念に元来備わっている危険性を抑制するために、フランス革命のスローガンである自由・平等・友愛にありますように、友愛の理念に立ち返らなければなりません。

鳩山由紀夫(日本国総理大臣二〇〇九年九月~二〇一〇年六月)1

 

注1.  2009年8月27日付けのニューヨークタイムズ紙に発表された鳩山由紀夫の英文のオピニオン「日本の進むべき新しい道」からの拙訳。Yukio Hatoyama, ‘New Path for Japan’, The New York Times, August 27, 2009.

 

フランス革命で自由・平等・友愛の理念が掲げられて以来、人類は市民として法の下の平等が尊重され、文化・宗教・教育・芸術・科学・個人の自由を経験でき、友愛に基づく経済の中でお互いの利益のために尊厳を持って働けるような社会を切望してきました。

 

けれども、実現に際してはこれらの理念がお互いに矛盾することに気付き、それをどう解決するか思案してきました。本書はフランス革命期の夢だった自由・平等・友愛の社会は、この三つの理念がそれぞれ本来の領域である文化システム・政治システム・経済システムに別々に当てはめられれば実現可能であると提唱してきました。平等の原理は政治組織の基盤ですが、それを科学研究の分野に当てはめることはできません。どの理論が正しいかを投票で決することは意味を成さないのです。友愛の原理は、政治制度に当てはめて友愛の名のもとに不平等な法律を成立させると政治がうまく機能しませんが、協同作業が必要な経済活動に当てはめれば有効に機能します。自由の原理は文化生活においては必須ですが、それが経済活動に適用されると歯止めのない活動で金融制度が崩壊するなど経済がうまく機能しなくなります。

 

つまり自由・平等・友愛の理念は三分節化した社会に当てはめればそれぞれの担当領域で実現可能になるのです。これらの原理は、星を見ながら航海するときの星座のように、社会生活で舵を取る際の目印になります。本書で主張してきたのは、自由の原理を私たちの文化と市民界の行動指針とし、平等の原理を国家部門・人権・受給権・責任などに当てはめ、友愛・互恵の原理を実業界と経済活動の指針とすれば、次第に健全さ・公正さ・豊かさ・適応力が社会に実現されるということです。

 

私がファシリテーターとして企業や政府関係者、市民界組織などの方略立案プロセスにかかわる時、これらの理念が常に議論になりますが、それに対する私としての回答を示したいと思い、本書を執筆することにしたのでした。コミュニティに関わるにせよ、ビジネスを経営するにせよ、組織の方向を探ったり個人としての方向を見出す際には誰でも巨視的な指針を求めます。彼らの疑問点は次のようなものでした。

 

·       どうやって協働に基づく効率的で持続可能な経済を作り、人々の真のニーズを満たすのか。

·       どうやって平和的かつ民主的、公正で公平な社会を築くのか。

·       どうやって万人が精神・創造性・社会生活・物質的豊かさなどの面でそれぞれ潜在能力を発揮できるようにするか。

·       どうやって地球および全ての生き物を保護し、またそのために人間の能力を養っていくか。

 

疑問に思うことを深く探る機会と場を与えれば、人々の探究精神や開かれた心や善意から、以上のような「種子」となる問いが湧き出てきます。このことに気付いた人たちは他にもいます。マサチューセッツ工科大学で組織発展の分野に取り組んでいるオットー・シャーマーもまた、私たちは似たような三つの根源的な問いに直面している、と考えます。

 

1.     貧困層や将来の世代も含めて全ての人がニーズを満たせるような公正な世界経済を創るには、どのようにすればよいか。

2.     身の回りや自分の将来に影響を与える事柄を決めるプロセスに全ての人が直接参加できるようするには、どのように民主主義を深め、政治制度を発展させればよいか。 

3.     人間一人ひとりが自己実現を目的として人生を生きることができるようにするには、どのように文化を刷新すればよいか。

 

C・オットー・ シャーマー著『U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術 』中土井僚・由佐美加子訳,英治出版 ,2010年.

 

本書を締めくくるに当たって、次に掲げるテーマについて検討してこれからの分析と行動への助けとします。

 

·       これまでたどってきた道…社会の進化:神権制度、民主制度、資本主義市場経済制度から…次は?

·       破綻した神々:私たちが陥った危機と前進への道

·       ビジョンと行動に向けて方略を探る三界間の対話:社会の心底から見て行動する

·       資本主義と民主主義を変革する機会

 

·       地域づくりと場の創造:経済的富・文化的富・社会的富を共にに創る

 

  • マーティン・ラージ著『三分節共栄社会』について
  • 第一部 社会を造り直す
  • 1. どんな社会の未来を望むか?
  • 2. 個人のイニシアチブが社会を造り直す
  • 3. 三分節社会:政府界・実業界・市民界
  • 第二部 資本主義の成熟と境界線の侵害
  • 4. 市民界の出現:壊れた柵を造り直す
  • 5. 国家を乗っ取る
  • 6. 文化を乗っ取る
  • 7. 狂奔する資本主義:没収された共同の富
  • 第三部 境界線を引き直す
  • 8. 資本主義の変革
  • 9. 市民のベーシックインカム:社会的包摂および全ての人の共栄
  • 10. 住民・家庭・コミュニティのための土地
  • 11. 教育に自由を吹き込む
  • 12. 共生社会:今出現する社会の未来像から導く
    • 資本主義と民主主義を変革する機会
    • 地域づくりと場の創造:経済・文化・社会の富を共に創る

 

 

 

 

 

社会三分節研究室・林寧志

オーストラリア、メルボルン在住

 

 

 

 

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      • まとめ
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      • まとめ:新自由主義と三分節社会の比較
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    • 8. 資本主義の変革
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      • 結論:教育界と政府のパートナーシップ
    • 12. 共生社会:今出現する社会の未来像から導く
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