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マーテイン・ラージ著、林寧志訳  © 2019 Yasushi Hayashi

 『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』11の2

 

まとめ

まとめますと、イギリスの教育はかつて準独立の制度であって、政府と教育界がお互いの貢献と境界線を尊重する中で教育界が指導権を握っていました。一九八〇年代に政府の介入が始まり、イングランドの教育にかかわる境界線を根本的に変えました。改善された点もありましたが、本当の学習を締め出す監査・監視文化という弊害をもたらしました。異質の考え方がもたらした弊害は改善によって得られた恩恵をはるかに上回っています。真の識字教育、ニート族[教育・労働・職業訓練のいずれにも参加しない若者]や恵まれない子どもたちのニーズといった複雑な問題に取り組むという観点から見ると、教育の〝市場化〟は経費の掛かる余計な回り道でした。「どの子も大切」児童福祉政策に代表される子どもたちの幸福と教育水準の追求は相対立するもので、現在のところ教育水準追求のほうが優勢です。イギリスでは教育に多大な努力や資金が注ぎ込まれているにもかかわらず、フィンランドなどの国のほうが好結果を生み出しています。GCSE卒業試験の結果そのものが水増しされていて教育が向上しているという印象を与えていると指摘する学者もいます。子どもの幸福と学校の成績を国際的に比較してみると、イギリスの子どもたちは中か中の下という結果が出ています。

 

2007年にユニセフ・イノチェンティ研究所によって発行された『レポートカード7 先進国における子どもの幸せ』 ‘An Overview of Child Well-bing in Rich Countries’ では総合評価比較総括の行われた21か国中、イギリスの順位が最下位だった。日本はデータが不足のため総合評価比較対象外であった。2013年の『レポートカード11 先進国における子どもの幸福度』 ‘Child well-being in rich countries ― A comparative overview’ では総合評価比較総括の行われた29か国中、イギリスは16位であった。上位5か国はオランダ、ノルウェー、アイスランド、フィンランド、スウェーデンで、最下位の5か国は25位のギリシャから、アメリカ、リトアニア、ラトビアと続き、ルーマニアが29位である。日本はデータ不足で総合評価比較対象外だったが、日本ユニセフ協会から、日本の統計データをオリジナル版で使用されたデータと照合することで補充し、日本と諸外国を厳密に比較できる指標のみを使って総合順位表に日本を位置づけた『先進国における子どもの幸福度―日本との比較 特別編集版』が出されている。それによると、日本とブルガリアを加えた31か国中、日本はオランダ・北欧各国に続く6位に位置付けられている。https://www.unicef.or.jp/library/library_labo.html 参照。 

 

何をやってもあまり変わらず、魔法の解決策を求めることが返って状況を悪化させているのです。教育を改善するには、児童生徒・教育者・政府・保護者・実業界を含めて社会全体が新しいことを学ぶプロセスを刷新しなければなりません。

 

教育問題の根本には政府と教育界の間の亀裂があります。政治制度と教育/文化制度という二つの制度が、本来はそれぞれに異なった方法で社会に貢献するようにできていますが、一方を優先して他方を犠牲にすると、これまで見てきたように、慢性的な偏りがもたらされます。学校や先生たちを自由にし、監査文化に終止符を打ち、ヒューマン・スケール・エジュケーションなどの新しい優れた実践を促進し、教育界と政府が対等なパートナーシップとしてお互いを尊重するようになれば、教育の花が咲きます。学校や教師たちが自由になればなるほど、教師の裁量と創造的な努力が増すのです。

 

最後に国を挙げての教育改革の成功例について述べておきます。フィンランドは今でこそ子どもの幸福度や学業成績の国際比較で一貫してトップか上位に位置していますが、かつては現在のイギリスのように調査結果の下位に属していました。政府も教育者たちもどこかに問題があるということに気付きました。解決法を探るためにフィンランド国民は、何がうまくいっており、何が駄目で、なぜそうなのか、研究しました。他国の学校を調査し、また国内でも成功している実践とそうでない実践について検討しました。何を維持し、何を中止し、どんな新しい試みをするかを決定しました。時間をかけてこれを行ったことで結果的に多くのことを学ぶことができた。フレーベル、モンテッソーリ、シュタイナーなど多様な教授理論から学び、優れた実践から学びました。様々な教育理論・実践を歓迎して、生きた実地研究を通じて学んだのです。児童生徒や保護者も討論参加を通じて民主的文化の一員としてこのプロセスにかかわりました。このように改革が行われ、今日フィンランドの教育が大成功を収めるまでになったのです。

 

 

  • マーティン・ラージ著『三分節共栄社会』について
  • 第一部 社会を造り直す
  • 1. どんな社会の未来を望むか?
  • 2. 個人のイニシアチブが社会を造り直す
  • 3. 三分節社会:政府界・実業界・市民界
  • 第二部 資本主義の成熟と境界線の侵害
  • 4. 市民界の出現:壊れた柵を造り直す
  • 5. 国家を乗っ取る
  • 6. 文化を乗っ取る
  • 7. 狂奔する資本主義:没収された共同の富
  • 第三部 境界線を引き直す
  • 8. 資本主義の変革
  • 9. 市民のベーシックインカム:社会的包摂および全ての人の共栄
  • 10. 住民・家庭・コミュニティのための土地
  • 11. 教育に自由を吹き込む
    • 結論:教育界と政府のパートナーシップ
  • 12. 共生社会:今出現する社会の未来像から導く

 

 

 

 

 

社会三分節研究室・林寧志

オーストラリア、メルボルン在住

 

 

 

 

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    • 2. 個人のイニシアチブが社会を造り直す
      • まとめ
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      • 三分節社会のまとめ
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    • 4. 市民界の出現:壊れた柵を造り直す
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      • まとめ:国家の乗っ取りから境界線の再設定へ
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      • まとめ:文化を乗っ取る
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      • まとめ:新自由主義と三分節社会の比較
    • 第三部 境界線を引き直す
    • 8. 資本主義の変革
      • まとめ:今出現する社会的経済
    • 9. 市民のベーシックインカム:社会的包摂および全ての人の共栄
      • まとめ:ベーシックインカムを実施に移す
    • 10. 住民・家庭・コミュニティのための土地
      • まとめ
    • 11. 教育に自由を吹き込む
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