マーテイン・ラージ著、林寧志訳 © 2019 Yasushi Hayashi
『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』8の2
この章では資本のあり方を変えて、信託する方法についていくつか述べました。これらの方法はいずれも資本を商品ではなく社会によって創造されたコモンズとして扱います。資本の私的所有を通じて儲けた利益は独り占めするという考え方から、社会利益のために資本を信託するという視点へ転換させることを示しているのです。コミュニティ資本信託(CCT)の目的は個人による起業イニシアティブと公共利益の継続のために資産を保護管理(スチュワード)することにあります。このようなコモンズ信託はアラスカ・パーマネント・ファンドやノルウェー石油基金からチャリティー財団、資産保護管理のために起業家が設立したパートナーシップなど、いろいろな形を取って生まれています。もう一つの方法は企業譲渡プロセスによって企業資本を資本信託に転換することで、これによって資本を事業のための融資と公共利益の維持の両方のために確保することができるのです。
結論
この章では、新自由主義派が経済成長の原動力は私利追求を目的とする企業形態にあると考えるのに反して、現実はしばしばそれとは異なることを示しました。展望を持って公共精神に満ちた起業家が大勢おり、自分の人間的ニーズを満たすと同時に自分の事業が公共利益に貢献していくことを望んでいます。様々な形の資本コモンズ信託を通じて資本を信託することで、有能な人材に資本を提供し、社会のための利益を創造するのを可能にします。資本を社会的に創られたコモンズとして信託するという考えは、創造性に満ちて、公正かつ持続可能な社会を発展させるための重要な鍵の一つです。社会によって創造された資本は貴重な資財であり、獲物を狙う金融資本主義制度の中にそれを放置して私利のために無駄にしてしまうのは許されません。
けれども〝高慢な金融制度を謙虚にさせる〟ためには広範な改革が必要であることを無視するわけではありません。これは非常に重要です。イギリス国民が一兆三千億ポンドあまりの税金によって銀行を救済したことを思い起こしてください。経営理事会が責任を持って資本を保護管理し、企業を運営するようなステークホルダー・ガバナンスが必要なのです。説明責任(アカウンタビリティ)を持ち、透明で独立した監査機関や信用格付け機関も必要です。新たな「グラス・スティーガル法」を制定して小売銀行業務(相互会社によって行うのが一番である)とカジノ投資銀行業を分離する必要もあります。不安定化を招き、秘密裏で、税金逃れの資金洗浄行為を誘うタックス・へイヴンは閉鎖されなければなりません。環境・倫理・経営状態についてトリプル・ボトム・ライン査定を実施する必要もあります。大きな銀行は分割して、大きすぎて潰せないようなものは無くさなければなりません。政府が金融制度の全体的な統制を行うという形式は維持するにしても、金融業界の規制や保証に関しては納税者による救済に頼るのでなく、業界内の資金によって自主的に実行されなければなりません。政府の役割はそれをチェックすることです。信用危機の原因として政府の〝軽いタッチの規制〟を批判するのは容易ですが、事実は金融業界自体が自己規制することに失敗したのです。つまり、業界が政府による統制に強く抵抗した結果、国民が損害を被る結果になってしまったのです。相互住宅金融組合が例外であるほかは、私有民営金融業界は金融コモンズについて全く気にかけませんでした。舞台裏での複雑で利己的な、政界と金融業界の癒着が金融メルトダウンを引き起こしたわけで、その全容が解明・分析されなければなりません。
ここで必要なのは政治制度と金融制度をはっきりと分離することです。金融という共同の富を社会のために保護することで、金融業界は全世界を支配するかのように振舞うのでなく一人前の〝社会人〟になる必要があります。そうでないと、信用が揺らぎ、不平等が増長し、信頼度が低下し、市場が機能不全になります。
それでは、労働や土地の問題はどうでしょうか。