マーテイン・ラージ著、林寧志訳 © 2019 Yasushi Hayashi
『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』4の0
「垣根がいいと、近所付き合いがよくなる。」
ロバート・フロスト『壁をなおす』
第二部では三分節社会という見取り図を使って実業界・政府界・市民界の境界線を明確にしていきます。境界線を不正に越えた場合、つまり企業が政府を操ったり、政府が市民界を押さえつけたりすると、どういう結果になるか分析します。一般に人々は社会の三領域のあり方を直感的に理解していて、権力構造を分割する必要性についても認識しています。社会領域の境界線を尊重することは各領域が他領域の独自のあり方を認めることです。三界並立の理解を通じて、各領域が他領域への影響を自主的に控えるようになります。すなわち、国家が国教制を廃止して宗教から手を引いたり、宗教組織が国家運営への関与を放棄したり、国家が事業経営から撤退して国営企業を民営化したりするということです。
社会三領域の権力分立はどんな利益をもたらすでしょうか。境界線を尊重して三領域間の力関係を分析すると、企業や政府機関、市民界組織などの活動目的の枠組みを大局的に判断するのが容易になります。三分節社会の性質を理解すれば、どんな組織でもその独自の立場を生かした大局的な方略を立案することができるようになり、また、実業界・政府界・市民界が領域をまたがるパートナーシップを組んで互恵と社会利益を促進するのにも役に立ちます。さらに、自治体が大手スーパーマーケット内に営利目的の多目的診療所の設立を働きかけると、地元の診療所や公共サービスとしての医療制度が切り捨てられるようになりますが、このような不健全な境界線逸脱が起こった場合にその状況を分析する手立てにもなります。
この第二部は軽く目を通すだけにしてもよく、その場合は各章末にある「まとめ」を飛び石にして第三部の社会問題の変革の糸口となる「資本主義の変革」、「市民のベーシックインカム」、「住民のための土地」、「教育の自由化」などの解決法に進むとよいでしょう。
第二部では次の内容を取り扱います。
· 市民界の出現:壊れた柵を造り直す
· 国家を乗っ取る
· 文化を乗っ取る
· 狂奔する資本主義:没収された共同の富